「生ける人形」(横溝正史)

原形作品と改変作品、どちらも味わいましょう

「生ける人形」(横溝正史)
(「横溝正史ミステリ
  短篇コレクション③」)柏書房

「生ける人形」(横溝正史)
(「ペルシャ猫を抱く女」)角川文庫

映画女優が突然
サーカスの一寸法師を刺殺し、
自刃して果てたという
事件が起きた。
女優と一寸法師は
お互いに面識はなかったという。
だが「私」は事件の一週間前に、
彼女から「私は近いうちに
死ぬのでは」という
相談を受けていた…。

1949年に発表された
横溝正史の短篇です。
約40年ぶりに再読して驚きました。
つい最近読んだ記憶があったからです。
横溝本をとっかえひっかえ探して
見つけました。
1937年発表の「白い恋人」
(角川文庫「丹夫人の化粧台」に収録)と
同じ筋書きなのです。

【主要登場人物】
原口トキ
…映画女優。
 初対面の男を殺害したあと、自刃。
蜘蛛安
…異様に背の低い男(一寸法師)。
 トキにいきなり刺される。
M
…かつてトキと同じ撮影所で
 働いていた技師。
「私」
…語り手。
 トキからは「先生」と呼ばれている。

横溝得意の「改作」です。
「白い恋人」の出来に
不満があったのでしょう、
文庫本にして10頁だったものを
16頁まで加筆しています。
何が付け加わったのか?
結末部分です。
「白い恋人」では、
女優が一寸法師を殺害した謎については
言及されていません。本作品では
「私」が技師Mについて捜査した件と
「私」の推理による一応の仮説が
立てられているのです。

原形作品と改変作品。
どちらが作品として
より完成度が高いのかと言われれば、
改変後の方がいいに決まっています。
原形に納得しなかった作者が
改変によって納得できる作品と
したのですから。
改稿癖のある横溝の場合、
改編作品が数多く存在し、
そのほとんどの場合において、
完成度が増しています。しかし
本作品の場合、何ともいえません。

「生ける人形」で新しく加わった結末は、
トキと一寸法師の何ともおぞましい
関係を提示しています。
こんな事実があったから、
こんな突拍子もない事件が起きたのかと
納得させられます。
「私」が謎を解き明かすという点に於いて
ミステリとして完結しているのです。

一方、「白い恋人」は、
その謎解きがない故に、
ミステリの味わいは薄いのですが、
逆にホラーとしての要素が
前面に押し出され、
何とも言えない恐怖に襲われるのです。

2018年に角川文庫から出版された
「丹夫人の化粧台
横溝正史怪奇探偵小説傑作選」
では、
初期作品から14篇が
セレクトされているのですが、
収録されているのは
「生ける人形」ではなく
原形作品「白い恋人」の方なのです。
少なくとも編者・日下三蔵氏は
「白い恋人」の方を
横溝のノン・シリーズ作品の「代表作」と
考えているのです。

どちらも味わいましょう。
わずかな加筆により、
作品から受ける印象が
かなり異なっています。
両作品とも柏書房刊「横溝正史
ミステリ短篇コレクション」にも
収録されています
(「白い恋人」は⑥、「生ける人形」は③)。
ぜひ読み比べてみてください。

※それにしても旧角川文庫版の解説
 (「青い外套を着た女」
 「ペルシャ猫を抱く女」)には、
 両作品ともお互いの関係について
 述べられていません。
 そのこともあり、これまで両作品が
 ほぼ同じ筋書きであることに
 気づいていませんでした。

柏書房
「横溝正史ミステリ短篇コレクション
 ③刺青された男」収録作品一覧

神楽太夫

刺青された男
明治の殺人
蠟の首
かめれおん
探偵小説
花粉
アトリエの殺人
女写真師
ペルシャ猫を抱く女
消すな蠟燭
詰将棋
双生児は踊る
薔薇より薊へ
百面相芸人
泣虫小僧
建築家の死
生ける人形

(2020.12.29)

Nova_27によるPixabayからの画像

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